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離婚で問題になること② 〜離婚事由〜

前回は、離婚事件一般について問題となることをご説明いたしました。

今回は、その中でも、離婚原因をテーマにご説明いたします。

 

 「この場合、離婚できますか?」という相談を受けることがあります。

 

そもそも、両者に合意があれば、どのような事情があったにしろ、離婚することはできます。これを協議離婚と言います。この場合は、両者が合意の上で、離婚届を提出すれば、離婚が成立します。

 

 前述の質問をされた方は、離婚が争われた場合に、離婚ができるかというものでしょう。前回もご説明したとおり、離婚をするには、まず家庭裁判所において、調停を行い、それでも離婚の合意が整わなければ、裁判をして離婚することになります。この場合の離婚の成否を決めるのは、裁判官の判断ですが、その判断の基準となるのが「離婚の原因」です。

 なお、離婚訴訟においても、和解による離婚(和解離婚)や被告が原告の主張を全面的に受け入れる認諾離婚も認められています(人事訴訟法37条)。

 

1 民法770条の規定
離婚原因は、民法770条に規定されています。

 

(裁判上の離婚)

第770

1 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

 

 770条1項各号は別々の離婚原因と考えられているので、訴訟では別々に主張する必要があります。例えば、1号が認められなかった場合などに備えて5号の事由も主張しておくのが一般的です。

 なお、2項において、裁判所が「相当と認めるとき」は離婚を認めないこともできるとされていますが、実際にこのような裁量判断がなされることはほとんどありません。つまり、1項各号にあたる事由が認められれば、ほとんど離婚が認められることとなります。

2 不貞行為(770条1項1号)

 不貞行為とは、婚姻している者が婚姻外の異性と自由な意思のもとに性的関係を結ぶことです。「自由な意思のもとに」性的関係を結ぶことですから、例えば妻が強姦の被害者である場合などは含まれません。

 不貞行為は、言わずと知れた離婚事由であり、不貞行為に当たるかどうか自体は、法律的知識がなくても、判断できることが多いです。問題となるのは、不貞行為の立証です。

 不貞行為の立証は、相手方が認めている場合や不貞行為の現場の写真・ビデオがある場合以外は困難を伴います。携帯電話やパソコンのメールの内容等により密接な交際をしていることが明らかになることはありますが、このことだけで直ちには性的関係を持ったとは言えないことも多いです。もし、手持ちの証拠で立証できるかどうか迷った場合には、弁護士にご相談されると良いと思います。
 もっとも、不貞行為が立証できなくても親密なメールが発覚した場合には不貞行為の存在が認められなくても「婚姻を継続しがたい重大な事由」(同条項5号)に該当することになります。

 なお、他方の配偶者が相手方の不貞行為を知った上で、これを許したような場合には、離婚原因としての不貞行為にはならないと考えられています。

 

3 悪意の遺棄(770条1項2号)

 悪意の遺棄とは、婚姻倫理からみて非難される態様で、夫婦の義務である同居、強力、扶助義務に違反する行為をすることです。
 ここで想定されているのは、理由もなく配偶者を放置して別居していることや、収入がありながら婚姻費用の分担をしないような場合です。配偶者が単身赴任等の仕事の理由で別居している場合などは含まれません。


4 3年以上の生死不明(770条1項3号)

 配偶者が3年以上、生死不明である客観的状況にある場合には、婚姻を継続する意味がないことから、離婚事由になります。なお、3年に満たない場合には、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することがあります。

 なお、7年以上生死不明の場合には、失踪宣告制度を利用することにより、死亡を擬制し、他方配偶者は相続人として、相続することができます。

 

5 強度の精神病(770条1項4号)

 回復する見込みのない強度の精神病にかかった場合には、夫婦の精神的交流が失われることから離婚事由として定められています。しかし、精神病に罹患した配偶者は自己に責任がないにもかかわらず、離婚され、経済的援助も受けられないとなると、精神病罹患者に酷ですから、この要件は厳格に解され、裁判例でもあまり認められていません。

 

6 その他婚姻を継続しがたい重大な事由(770条1項5号)

 この要件は、すべての事情を考慮して、円満な夫婦生活の継続または回復を期待できない状態に陥っている場合に認められます。

 代表的なのは、別居です。夫婦が長期間別居している場合には、婚姻関係が破綻していると考えられます。重要なのは、別居期間ですが、実務上は5年以上別居状態が続いていれば、婚姻関係は破綻していると判断されています。

 その他には、虐待、暴力、重大な侮辱や、浪費、借財、不就労、犯罪行為などが挙げられます。なお、性格の不一致もこの要件に該当することがありますが、異なる人間同士、多少の性格が合わないことは十分想定されるので、性格の不一致が離婚原因になるのは、よっぽどの場合に限られます。


7 有責配偶者からの離婚請求

 離婚において問題になるのは、不貞行為などの離婚原因を形成した配偶者(有責配偶者)から、離婚の請求ができるかという問題があります。夫婦関係を壊した張本人からの離婚請求を認めると、他方配偶者はまさに踏んだり蹴ったりですよね。この点について、判例は次のように判断しています。

「五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
 そうであつてみれば、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。」(最大判昭62.9.2)

 

この判例から、有責配偶者からの離婚請求は、次のように制限されています。

 

  • 夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において、相当の長期間に及んでいること
  • 夫婦間に未成熟の子がいないこと
  • 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が認められないこと

 

これらの要件がみたされる場合に、有責配偶者からの離婚請求が認められることになります。

 夫婦間に未成熟の子がいたり、離婚を認めることにより他方配偶者が、経済的に苛酷な状態に置かれる場合には、有責配偶者の離婚請求は認められないことになります。

 

 

次回も引き続き、離婚についてご説明いたします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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