後見制度②〜任意後見〜
後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があることは前回ご説明致しました。任意後見制度は比較的新しい制度ですので、まだあまり浸透していませんが、本人が事前に、つまり、元気なうちに契約をすることができます。そして、誰を後見人とするかを選任することができます。
本稿では、任意後見制度の概要や種類、注意点についてご説明致します。
1 制度の概要
任意後見制度は、本人があらかじめ公正証書により締結した任意後見契約に基づき、本人の判断能力が不十分になった時に、任意後見受任者が任意後見人となって本人を援助する制度です。
任意後見契約の効力発生時は、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時です。
前回、法定後見人には代理権・同意権・取消権を有する旨をご説明致しましたが、任意後見人は、代理権のみしか有しません。
任意後見制度は、法定後見制度と異なり、本人の自己決定権を尊重し、裁判所等の公的な関与を最小限にしているところに特徴があります。
また、いかなる内容の代理権を付与するかを自由に定めることができることも法定後見との大きな違いです。もっとも、代理権の範囲等を明確にする必要があることから、公正証書を作成することが必須となっており、任意後見契約公正証書作成されると、法務局に登記されることになります。
任意後見人は1人でも複数でも良いことになっています。また、第一次的にはAという任意後見人を選任し、Aさんが業務を行うことができなくなったらBという任意後見人が業務を行うと言ったように順序づけて任意後見人つけることも可能です。
2 任意後見監督人
任意後見監督人とは、任意後見人の支援活動が適正におこなわれているかどうかを監督する人や団体のことです。任意後見制度では、任意後見人が選任されると必ず任意後見監督人を選任する必要があります。
任意後見契約を結んですぐに選任されるのではなく、本人が認知症など精神障害によって判断能力が不十分になり、実際に任意後見が開始される時点で、申し立てをおこなってはじめて選任されます。任意後見監督人の選任申し立てができるのは、本人とその配偶者、4親等内の親族と任意後見受任者です。なお、任意後見監督人が選任されると任意後見が開始します。
任意後見監督人は、任意後見人と違って、事前に定めることができません。家庭裁判所は任意後見監督人の選任申し立てを受けたら、本人にとって最も適切であると判断した人を任意後見監督人に選任します。
任意後見監督人は、弁護士や司法書士等の専門職が選任されることが多いようです。
法定後見の場合は、家庭裁判所は、後見人等に対して、後見事務報告や財産目録の提出を求めることなどができました。他方で、任意後見の場合には必要がある時に任意後見監督人に対して事後報告を求めることがあるにすぎません。
3 任意後見契約の種類
任意後見契約の種類には、将来型契約、即効型契約、移行型契約の大きく3つがあります。
将来型契約は、任意後見受任者が家庭裁判所に対して任意後見人の選任を請求して、監督人が選任されたときに初めて契約に基づく後見が開始されることになる契約です。
即効型契約は、すでに判断能力が低下している場合であって、契約締結時点では意思能力を有する場合に想定される契約です。任意後見契約を締結するとともに、本人または任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることが可能な契約となっています。
移行型は、十分判断能力がある時から、受任者に財産管理事務等を委任し、判断能力が低下した時点で任意後見監督人の選任を受けるという契約です。
4 任意後見契約に関する留意点
任意後見契約は、契約によって代理権の範囲を定めることができますが、定めた範囲外の事項は、代理業務ができません。権限が付与されていない事項をどうしても行わなければならない場合には、法定後見開始の審判を受け(任意後見に関する法律10条1項)、法定後見人を選任してもらって、法定後見人にしてもらう必要があります。そして、一度、任意後見契約の効力が発生した後に、法定後見人が選任されると、任意後見契約は終了します。この点を考慮して、最初に代理権の範囲を慎重に決めておく必要があるでしょう。
任意後見人の報酬は原則として自由に定めることができます。もっとも、あまりにも高額な報酬は、注意が必要です。法定後見へ移行する審判には、「本人の利益のため特に必要がある」と認められる必要があるところ、あまりに高額な報酬については、「本人の利益のために特に必要がある」場合に当たると言われています(大阪高決平成14.6.5)。そうすると、任意後見監督人から法定審判開始請求により、法定後見が開始され、任意後見契約が終了することが想定されます。このようなことも考慮に入れて、報酬を設定する必要があるでしょう。