ネットトラブル② 〜個人情報の流出〜
前回に引き続き、インターネットにまつわるトラブルについて解説していきます。
第2回の今回は、個人情報流出についてご説明いたします。
自らの身を守るためにも、知っておきたいところです。
皆さんの身近でも起こりうる事例とともに解説していきます。
<事例1>
Aさんは、「甲」というショップのメールマガジンを登録していたが、甲から顧客のメールアドレスが流出したとの連絡を受けた。その後、迷惑メールが頻繁に来るようになり、メールアドレスを変更せざるを得なかった。Aさんは当該メールアドレスをメインで使用しており、友人・知り合いにメールアドレスの変更の連絡を余儀なくされた他、甲以外の会員登録しているショップ等にメールアドレス変更の手続をせざるを得なかった。
<解説>
<事例1>では、①メールアドレスが流出したこと自体について、甲に損害賠償ができないか、②Aさんがメールアドレス変更手続等の作業に費やされた労力について甲に何らかの請求ができないかの2点が問題となります。
まず、①についてです。
同意のない個人情報の流出は、不法行為に当たりますが、そもそも、メールアドレスが「個人情報」に当たるのでしょうか。
個人情報とは、「生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるもの」を意味します。
したがって、メールアドレスが数字やローマ字の羅列であって個人を識別できないものであれば、「個人情報」の流出には当たらず、損害賠償請求はできません。
一方で、メールアドレスが自分の名前をローマ字にしたものであった場合には、損害賠償請求をすることができる可能性があります。もっとも、この場合の損害賠償額というのは、高額になることは期待しない方が良いでしょう。
参考までに、住所、氏名、電話番号、メールアドレス等が流出した事件(大阪地判平成18年5月19日)では、1件あたり5000円の慰謝料が認められています。
②については、メールアドレス流出と迷惑メール受信の因果関係があるかが問題になります。事例1の流出がなくても、迷惑メールが受信されたのであれば、因果関係が認められません。
因果関係を立証するためには、迷惑メールが来る等になった時期、迷惑メールの業者と甲が同じ業態であるか、同じように今回の甲の流出被害にあった人が同じ時期に同じ業者からの迷惑メールが来ているか等を検討する必要があるでしょう。
また、Aさんがメールアドレス変更等で費やされた労力についても損害賠償請求をすることが考えられます。この労力を金銭に換算するのは難しいところです。
<事例2>
C会社に勤めるBさんは、取引先である乙社宛のメールを別人に誤送信してしまった。
当該メールには乙社の機密情報が含まれるファイルが添付されているが、ファイルにはパスワードでロックがかけられている。そして、パスワードは乙社の担当者に口頭で伝えているため、誤送信した相手はファイルを開くことができないと思われる。また、「このメールにお心当たりのない方は申し訳ありませんが直ちに破棄してください」との文言が付されている。
C社およびBさん個人は、乙社から何らかの責任を追及されることがあるか。
<解説>
C社と乙社は、明確な合意がなくても、取引する情報を無関係の第三者に流出しない旨、黙示的に合意していると考えられます。したがって、メールの誤送信により乙社に損害が生じた場合には、当該合意の不履行となり、C社が債務不履行責任を負うと考えられます。この場合、乙社に損害が生じたか否かがポイントになるでしょう。添付ファイルを見ることができても、C社と乙社とが取引していること自体知られたくない情報であったのであれば、損害が生じうることになります。
また、Bさん個人の過失によって誤送信が生じているので、Bさんが不法行為責任、C社が使用者責任を問われる可能性があります。
なお、「このメールにお心当たりのない方は申し訳ありませんが直ちに破棄してください」との文言があることをもって、責任を負わないことにはなりません。しかし、会社の取り組みとして、情報セキュリティに配慮していることを示すものとして、会社の責任を軽減する事情の1つになると考えられています。
<事例3>
丙社に勤めるDさんは、会社の同期でメーリングリストを開設し、仕事のことやプライベートのことを同期とやりとりしていました。
会社の同期のみを参加させるつもりでしたが、設定を誤っており、誰でも入れるようになってしまっていました。そして、会社外の関係ない人がメーリングリストに入っていることがわかり、業務上の事項もその人に漏れてしまっていました。Dさんは、丙社に対して何らかの責任を負うでしょうか。
<解説>
丙社とDさんの間には、雇用に当たって、会社内の情報を外部に流出しない契約があるのが通常です。
メーリングリストの設定を誤り、誰でも参加できるようにしていたことはDさんの過失と言えるので、これによって、会社が何らかの損害を被ったのであれば、Dさんは債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
損害として想定できるのは、社外秘とみられる情報の流出や、メーリングリストに流れている社内の愚痴等が、社内の情報を公開の掲示板に転載されて、会社の評判が落ちた等の損害が想定できます。
限られた者のみでメーリングリストを開設する場合には、参加者を承認制にする等、管理者が参加者を管理できるようにしておくことが肝要でしょう。